「相談件数が多い法律事務所は優秀な法律事務所か?」
という点に関して今回はお話ししたいと思います。

法律事務所の広告で相談件数〇〇件、という広告を見たことはありませんか?

このように実績をアピールする手法は、弁護士業界以外でも多く使われています。

例えば、サプリメントやダイエット器具の広告では販売実績〇〇個、〇〇台というように販売実績を大々的にアピールしていると思います。




バンドワゴン効果

この実績をアピールする手法は、流行っているものは安心して購入しやすくなる、という消費者の購買心理における「バンドワゴン効果」を利用したものです。

みんなが買っているのだから安心、行列ができているお店だから安心、というようなものです。

私は弁護士業界にいくつかのマーケティング手法を普及させてきましたが、相談件数をアピールするという手法はその中でも代表的なもののひとつです。

ネットの時代になると消費者はネットで弁護士を選ぶようになります。
その際にどの弁護士を選ぼうか消費者が迷っているときに、相談件数が多い法律事務所の方が選ばれやすいだろうと思ったからです。




弁護士の反応

しかしこの「バンドワゴン効果」の手法を初めて弁護士に説明したときの反応はあまりよくありませんでした。その時に弁護士から言われた面白いエピソードをご紹介します。

ある弁護士に「それだけキャリアが長く相談実績があるのならば、相談件数をホームページに書いてアピールした方がよいですよ」とアドバイスしたときのことです。

その弁護士が言った言葉がとても印象的でした。それは「相談件数なんてアピールして何の意味があるの?弁護士はどんな仕事をしたかが重要なんじゃないの?」と言われました。

確かに弁護士業界で一目置かれるのであれば画期的な判例を獲得するなどの実績が重要であり、相談件数が多いことであの弁護士は優秀だ、この分野では第一人者だというように一目置かれることはあまりないように思います。

ですからその弁護士が言われた「相談件数なんてアピールして何の意味があるの?」という言葉はすごく当たり前のことです。

広告には縁のなかった弁護士業界ではこの先生に限らず、このような反応が当時は数多くありました。




現実の弁護士マーケティングは

しかし実際、かなりのキャリアがあり、その地域において実績のある法律事務所が、広告が下手で今のネット社会に対応できず、集客に苦しんでいる場合もあります。

そこで、私はそのような法律事務所には消費者の視点からみれば相談件数を表示するのが有効であることを説明し、相談件数をホームページに記載するようにしつこくアドバイスしました。

そしていくつかの法律事務所でこの相談件数をアピールすることでネット集客がうまくいくことがわかると、この手法を使う法律事務所が増えてきました。

特に弁護士の場合、相談件数の表記は累計で表示する場合が多く、キャリアが長ければそれだけ多くの相談件数を記載できます。また新しい法律事務所でも過払い金や離婚・不倫、ネット詐欺のような需要が多い案件を多く扱っている事務所はアピールできるだけの相談件数を比較的早期に集めることができます。

このように書くと、消費者の法律相談を獲得するために相談実績を掲載しているのではないか、それは消費者をだましていることにならないか、と思われる方もいるかと思います。

しかしこのような実績をアピールする手法はごく当たり前のように多くの業界で使われている広告手法なのです。

ウソの相談件数を表記することは問題ですが、正しい相談件数を表記することは当たり前の広告手法なのですからなんら問題はありません。

とは言うものの一般消費者の誤解を解いておく必要がありますので「相談件数が多い法律事務所は優秀な法律事務所か?」という本題に戻って話をします。

先ほどの弁護士から言われた通り、相談件数とその法律事務所が優秀かどうかは関係ないと私は思っています。相談件数が多い法律事務所は確かに人気がある法律事務所だとは思いますが、それと弁護士として優秀かどうかは別物だと思います。

ですから相談件数が多い法律事務所は優秀な弁護士かどうかといえば、それは相談してみないと、または頼んでみないとわかならいというのが正しい判断ではないでしょうか。

テレビで紹介された一日何百個も売れている店や行列のできているお店が、実際食べてみないとおいしいかどうかわからないのと同じです。

レストランなら多少不満でも数百円から数千円の出費とわずかな時間のロスですみますが、弁護士に依頼するとなると長期間の弁護士との付き合いと高額な弁護士費用の負担になります。

ですから、相談実績というのは広告表現のひとつなので、相談実績を弁護士を選ぶひとつの基準にするのは結構ですが、重要な判断基準とすべきではないと私は思います。

ただし相談実績でも紛らわし表現がありますのでそれには注意してください。以下で紛らわしい広告表現について具体的に解説します。このあたりは弁護士会で広告表現のガイドラインをきちんと作るべきだと私は思っています。

紛らわしい相談実績の表現例

例えばビールの広告では販売本数何本と表現する場合、メーカーの今までのビールの累計出荷本数を表記することはまずありません。発泡酒なら発泡酒での本数ですし、累計の場合はその商品の累計本数ですし、累計何万本と累計をつけて表記するのが普通です。

通信販売でも同じ商品のシリーズであれば、シリーズ累計何万台とシリーズ累計と表記します。

しかし法律事務所の広告の場合はその辺があいまいです。例えば、離婚の相談件数が累計1万件、債務整理の相談件数が累計8万件、交通事故の相談件数が累計1万件であった場合、その法律事務所全体の相談件数は累計10万件になります。

この場合「相談件数、累計10万件の〇〇法律事務所」と広告に表記している法律事務所はあまり見られません。一般には「相談件数10万件、〇〇法律事務所」と表記していることが多いです。これだと累計なのか、前年度実績なのかわかりません。またそれが例えば離婚の広告でも、離婚の相談件数は累計1万件ですが、相談件数10万件と表記されているケースもあります。

例えばこんな感じの広告文です。「離婚に強い弁護士、相談実績10万件、〇〇法律事務所」というような広告です。これだと相談実績10万件が〇〇法律事務所にかかるのか、離婚の相談実績にかかるのかあいまいです。また相談実績も累計なのか前年度のなのかも不明です。もっというと相談実績のカウントの仕方がビール業界とは違い弁護士業界には基準がありませんので、何をもって相談件数をいちとカウントしているのかもあいまいです。

例えば、こんなことをしている法律事務所はないですが、相談実績だけを数多く集めたいなら、ネットのメール相談や無料電話相談を可能にして、借金問題や不倫問題、ネット詐欺などのような需要の多いものの無料相談をしていることを、大々的に広告すれば、費用と手間はかかりますが相談実績を素早く集めることが可能です。

さらに、もっとエグイやり方なら、法律相談の定義があいまいですから、その人自身が悩んでいなくても匿名でも、単なる興味本位でも、法律相談としてメールが来ればカウントするということにすれば、ラジオやテレビで「〇〇先生に聞いてみたいこんな法律相談」とかのコーナーを作って視聴者から法律相談を集めれば、あっという間に法律相談の件数を集めることができます。

さらに、法律相談を送ってくれた方の中から抽選で1名にハワイ旅行をプレゼント、とかすればもう大変な数になります。

このようなことをしている法律事務所はさすがにないと思いますが、このようなやり方で実績を積むことは多くの商品では普通に行われているマーケティング手法です。

ですから弁護士を選ぶときだけに限りませんが、相談実績などのような実績は弁護士を選ぶ基準のひとつではありますが、重要な基準ではないと考えていた方が賢明だと思います。

繰り返しになりますが、弁護士に依頼するとなると長期間の付き合いと高額な費用がかかります。車を買うときにディーラーに足を運ばず、他車との比較もしないで買う人は少ないと思います。

弁護士選びも同じです。弁護士選びで失敗しないようにするには、弁護士と面談し、きちんと担当してくれる弁護士かどうかをご自身で判断するのがよいと思います。